胃癌
胃癌は、私たち日本人にとって非常に身近な病気の一つであり、早期発見と適切な治療が何よりも重要です。少しでも気になる症状がある場合には、内視鏡による精査を受けることをお勧めします。また、過去にピロリ菌の除菌治療を受けた方も注意が必要です。ピロリ菌の除菌で胃癌のリスクは軽減していますが、最近では除菌後胃癌も多く発見されるようになり、問題となっています。ピロリ菌は消えたから安心とは考えないで、定期的な内視鏡検査を受けるようにしてください。
胃癌の症状
胃癌の大きな特徴の一つは、初期段階では自覚症状がほとんど現れないという点にあります。癌がまだ粘膜の表面に留まっている早期の段階では、痛みや違和感を感じることは稀です。そのため、気づかないうちに進行してしまうリスクがある病気と言えます。しかし、病状が進むにつれて、徐々に体からのサインが現れ始めます。日常的に感じる些細な不調が、実は胃癌のサインである可能性も否定できません。私たちが臨床の現場でよく伺う症状には、以下のようなものがあります。
- 胃の付近の痛みや不快感
- 胸やけや吐き気、胃のもたれ
- 食欲の低下や、それに伴う体重の減少
- 食べ物が喉を通りにくい感覚(つかえ感)
- 黒い色の便(タール便)が出る
- ふらつきや息切れなどの貧血症状
早期胃癌で見られる症状
先ほどお伝えした通り、早期胃癌では症状が出にくいのですが、人によっては「軽い胃の痛み」や「なんとなく胃が重い」と感じることがあります。これらは一般的な胃炎や胃潰瘍の症状と非常によく似ているため、市販薬で様子を見てしまう方も少なくありません。気になる症状がある場合には、内視鏡できちんと診断を受けることが大切です。放置しておくと、胃癌が進行してします可能性があります。
進行胃癌で見られる症状
癌が進行して胃の壁を深く侵食したり、周囲の臓器に広がったりすると、症状はより明確になります。食事が十分に摂れなくなるほどの食欲不振や、急激な体重減少は注意が必要です。また、癌の部分から出血が続くと、便が真っ黒になる「タール便」が見られるようになります。これは、胃酸と血液が混ざることで黒く変色するために起こる現象です。また、慢的な出血によって重度の貧血を招き、立ちくらみや強い倦怠感を感じることもあります。これらの症状がある場合は、できるだけ早く消化器科を受診してください。
胃癌の原因
胃癌が発生する原因は一つではありませんが、長年の研究によっていくつかの大きな要因が明らかになっています。私たちが患者さんに説明する際、最も重視しているのが「環境要因」と「生活習慣」です。これらの要因が複雑に絡み合い、胃の粘膜に慢性的なダメージを与えることで、癌細胞が発生しやすくなると考えられています。
ヘリコバクター・ピロリ菌の感染
胃癌の最大の原因と言われているのが、ヘリコバクター・ピロリ(通称:ピロリ菌)への感染です。この細菌は胃の粘膜に棲みつき、持続的な炎症を引き起こします。これが「慢性萎縮性胃炎」という状態を招き、長い年月をかけて癌へと進行していくリスクを高めます。日本人の胃癌患者さんの多くがピロリ菌に感染しているというデータもあり、ピロリ菌の除菌治療は胃癌予防の第一歩と言えます。当院ではピロリ菌の検査から除菌治療、その後の経過観察まで一貫した診療を行なっています。
食生活と嗜好品の影響
日々の食習慣も胃癌のリスクに関わっています。特に注意が必要なのは、塩分の過剰摂取です。塩分濃度の高い食事は胃の粘膜を傷つけ、ピロリ菌の感染によるダメージを加速させることがわかっています。また、野菜や果物の摂取不足も、粘膜の修復機能を低下させる要因となります。さらに、喫煙習慣は胃癌のリスクを確実に高めます。タバコに含まれる化学物質が唾液に溶けて胃に運ばれ、直接的に粘膜を刺激するからです。お酒についても、過度の飲酒は胃への負担となりますので、節度ある楽しみ方が大切です。
加齢と家族歴
胃癌は40代以降から増加し始め、高齢になるほど発症率が高くなる傾向があります。これは、長年の生活習慣の蓄積や、ピロリ菌による炎症の期間が長くなるためと考えられます。また、血縁家族に胃癌を患った方がいる場合、体質的な要因や似通った生活環境を共有していることから、リスクが相対的に高まる可能性があります。遺伝的な要素についてはまだ研究段階の部分もありますが、家族歴がある方は、より積極的に定期検診を受けることをお勧めします。
胃癌の病気の種類
胃癌と一口に言っても、その性質や広がり方によっていくつかの種類に分類されます。医師が治療方針を決定する際には、癌がどの程度の深さまで達しているか、どのような組織の形をしているかを詳しく調べます。ここでは、患者さんにも知っておいていただきたい基本的な分類についてお話しします。
進行度による分類
胃の壁は内側から順に、粘膜層、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という5つの層で構成されています。癌がどの層まで達しているかで、大きく二つに分けられます。
- 早期胃癌・・癌が粘膜層または粘膜下層に留まっている状態を指します。この段階で発見できれば、多くの場合で良好な経過が期待できます。
- 進行胃癌・・癌が粘膜下層を超えて、固有筋層よりも深い部分に達した状態です。周囲のリンパ節や他の臓器に転移する可能性が高まり、より慎重な治療が必要になります。
組織型による分類(分化度)
顕微鏡で癌細胞を観察した際、元の胃の細胞に近い形をしているかどうかで分類されます。これは癌の「顔つき」のようなもので、治療の選択に影響します。
分化型胃癌
元の胃の粘膜の構造をある程度保っているタイプです。比較的高齢の方に多く、進行が穏やかな傾向があります。内視鏡による治療が検討しやすい種類の一つです。
未分化型胃癌
元の胃の構造が崩れており、バラバラに広がりやすい性質を持つタイプです。比較的若い方にも見られることがあり、周囲の組織へ浸潤(しみ出すように広がること)しやすいという特徴があります。スキルス胃癌と呼ばれるものも、この未分化型の一種であることが多いです。
胃癌の治療法
胃癌の治療は、近年著しい進歩を遂げています。当院のような消化器内科・胃腸科では、主に検査と診断、そして早期の段階における内視鏡治療を中心に関わります。治療法は、癌の進行度(ステージ)や患者さんの全身状態を総合的に判断して決定されます。
内視鏡的治療
早期胃癌で転移の可能性が極めて低い場合に選択される、お腹を切らない治療法です。口から内視鏡を挿入し、胃の内側から癌の部分だけを削り取ります。
- 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)・・専用の電気メスを使い、癌の周囲の粘膜を少しずつ切り開いて、一括で剥ぎ取る高度な手法です。大きな病変でも確実に切除することが可能です。
- 内視鏡的粘膜切除術(EMR)・・病変に輪状のワイヤーをかけ、電気を流して焼き切る方法です。比較的小さな癌に対して行われます。
外科的手術
内視鏡治療が難しい進行度の癌や、リンパ節への転移が疑われる場合に行われます。胃の一部または全部を切除し、同時に周囲のリンパ節も取り除きます。最近では傷口を小さく抑えられる腹腔鏡下手術が普及しており、患者さんの体への負担を軽減する工夫がなされています。
薬物療法(抗がん剤治療)
手術による切除が難しい場合や、手術後の再発予防を目的に行われる治療です。点滴や内服薬によって全身に薬剤を届け、癌細胞の増殖を抑えたり死滅させたりします。近年では、特定の遺伝子やタンパク質を狙い撃ちする「分子標的薬」や、自身の免疫力を活用する「免疫チェックポイント阻害薬」など、新しい薬も次々と登場しており、治療の選択肢が広がっています。
胃癌についてのよくある質問
Q1. 胃カメラは苦しいと聞きますが、痛くないでしょうか?
A1. 胃カメラに対して不安を感じる方は多いですが、当院では患者さんの苦痛を最小限にするための工夫をしています。鎮静剤を使用して眠っているような状態で検査を受けていただくことも可能ですし、細径の経鼻内視鏡を使用することも可能です。
Q2. ピロリ菌を除菌すれば、もう胃癌にはなりませんか?
A2. ピロリ菌を除菌することで胃癌の発症リスクを大幅に下げることができます。しかし、リスクがゼロになるわけではありません。除菌後も、それまでに受けてきた胃粘膜のダメージは残っているため、定期的な内視鏡検査による経過観察を続けることが非常に重要です。
Q3. バリウム検査で異常がなければ、胃カメラは不要ですか?
A3. バリウム検査(胃透視)も有用な検査ですが、平坦な早期胃癌や微細な粘膜の変化を見つけるには、内視鏡検査の方が精度が高いとされています。バリウム検査で「異常なし」とされても、症状がある場合や、より確実なチェックを希望される場合は内視鏡検査をお勧めします。
Q4. 胃癌は遺伝しますか?
A4. 特定の遺伝子が原因となる特殊なケースもありますが、多くはピロリ菌の感染や生活習慣といった「環境要因」が大きく関与しています。ただし、家族で同じような食生活を送っている場合などは、家族内で発症しやすい傾向が見られるため、注意を払うに越したことはありません。
院長より
胃癌という言葉を耳にすると、誰しもが大きな不安を感じることでしょう。胃癌は早期に見つけることができれば、決して恐れる病気ではありません。内視鏡技術の進化により、早い段階での発見と治療が可能になっています。院長は、長年、自治医科大学で早期胃癌の診療に携わってきました。また、当院では毎年、数十名の早期胃癌を発見し、内視鏡治療可能な連携施設にご紹介しております。一部の早期胃癌は当院で日帰り手術を行うこともあります。もし、胃の調子が悪いなと感じたり、検診で異常を指摘を受けたり、ピロリ菌除菌後に精査を受けていない方は、どうか一人で悩まずにご来院ください。早期発見のために最も大切な一歩は、皆さんの「少しの勇気」です。
